Footy talks Vol.3 「北欧のコミュサカに触れてきた」

2017年9月1日

日本代表がロシアW杯を決めたその夜、スタジアムから空港に直行しました…

前日、日本代表がロシアW杯出場を決めたあの場所にいたはずなのに、私の体は既に北欧の大地にありました。

ヨーロッパもW杯予選は終盤戦を迎えていました。私は初出場を目指し好位置に付けていたアイスランド代表が敵地に乗り込む試合を観に、フィンランドはタンペレという工業都市に来ていました。

タンペレの街は代表戦がやって来るワクワク感に包まれていました。

昨年はフィンランド建国100年という節目の年だったそうで、フィンランドサッカー協会は代表戦を首都ヘルシンキだけでなく、地方都市でも積極的に開催していました。そのため今回ヘルシンキからバスで約3時間もかかる地方都市に飛ばされてきたわけです。大宮の試合を観に来たのに熊谷に飛ばされるような感覚ですが、時間はそれの倍以上でしたね…

観光にはもってこいのタンペレ

郊外の展望台から眺めたタンペレの街

地方都市か…と侮ることなかれ。タンペレの街はサッカーが絡まないフィンランド旅でも必ず訪れてもらいたい素敵な街でした。

日本人も多く訪れるムーミンミュージアム。

新しく開館したばかりのムーミンミュージアムを始め、ここタンペレが発祥というフィンレイソンを中心に、人気の北欧デザインが売りの雑貨店もたくさんあります。湖の国フィンランドを体感できる展望台や公衆サウナなど、見どころは満載です。人口約20万人とフィンランドとしては大都市ですが非常に落ち着いた空気が流れていてゆっくり見て回れることでしょう。

9月上旬でしたが湖の水はとても冷たかった…サウナで体の芯まで温めないとツラいですが、話のネタには最高です。

フィンランドの3部リーグを観に行きます

さてここからはサッカーのお話。正直、フィンランドはヨーロッパの中でもサッカー不毛の地の印象が強いでしょう。代表チームはW杯や欧州選手権の本大会に出場したことはありませんし、クラブチームの活躍を耳にすることもほとんどありません。長くサッカーを観ている人ならリトマネン、ヒーピア、ヤースケライネンといった往年の名選手くらいなら聞いたことがあるかもしれませんが。この国ではアイスホッケーが一番人気のスポーツだそうです。

今季からC大阪に加入した田中亜土夢選手が名門のHJKヘルシンキに所属し3シーズンプレーしていたことでフィンランドでもサッカーってやってるんだと思った人も多いのではないでしょうか。昨季はヨーロッパ各地でプレーを続けている「渡り鳥」和久井秀俊選手も2部リーグでプレーしていたようです。

ただ今回観てきたのは更にその下の3部リーグ。タンペレに本拠地を置くTPVというクラブの試合です。何故観ようかと思ったかというと、目当ての代表戦の前日にすることが何も無かったから。ただそれだけ。どんな雰囲気か全く予想が付かない中、スタジアムに向かったのです。

古豪クラブは意外としっかりした運営

5000人収容のコンパクトなスタジアム。9月上旬だと午後6時でもこの明るさ。

街の中心部にある宿から徒歩10分もかからず着いたタムラーンスタジアム。3部リーグのスタジアムとは思えないほど立派ですが、昨季トップリーグで3位だったイルベスFCと共同使用とのこと。入場料も取るようですが、今回は事前に連絡していたため、クラブスタッフからチケットはプレゼントしてもらいました。

スタジアム内のグッズショップ。その奥には温かいコーヒーや名物のソーセージを売っているブースがありました。

トップリーグを開催できるスタジアムだけあってグッズショップや飲食ブースも用意されています。タンペレご当地グルメは焼き立てのソーセージだそう。9月初旬とはいえ夜は涼しいタンペレ。ありがたいグルメです。

2ユーロで売られているタンペレ特産の豚のソーセージ。お好みでケチャップやマスタード、ピクルスをかける。

弱小国の3部リーグなんてほぼ草サッカーと同じ環境だろうと思っていまいたが、ここTPVは最低限興行としての体を成していて正直驚きでした。

それもそのはず、このTPVはフィンランドのトップリーグでも優勝経験がある古豪クラブ。同じ町のライバル、タンペレ・ユナイテッドとのダービーマッチは3部リーグにもかかわらず2,000人の観客が詰めかけるほど、サポーターは比較的多いクラブなのです。

荒れに荒れた試合・・・

さて試合の方ですが、あまり記事でこの言葉も使いたくないのですが、途方もない「バカ試合」でした。いろいろなことがハイライト映像にも乗り切っていないので以下箇条書きします。

  • 早々にホームのTPVが立て続けに2失点
  • 2失点目の交錯プレーでGK負傷交代
  • TPVも前半のうちに2点返して追いつく
  • 判定に激怒した相手監督が前半のうちに退席処分を食らう
  • 後半開始早々、相手選手が仲間割れを起こして1人退場
  • しかし10人になった相手チームに勝ち越しを許す
  • ただ数的有利を生かしてTPVはすぐに追いつく
  • 追い越せムードが漂う中、TPV唯一のフィンランド代表経験者インナネン選手がベテランらしからぬ足裏タックルで一発退場
  • 相手チームに試合終了間際の勝ち越し点を献上
  • フルタイム TPV 3-4 BK-46

何これ箇条書きだけでも疲れるんですけど…

ハイライトはこちらです

バックスタンドに集結したTPVサポーター。現地人も移民も共に応援します。

試合展開には疲れてしまいましたが、サポーターは個性的で面白かったです。もともと労働者階級のクラブということで敷居は低く、今では移民の方々が多く応援に加わっているとのこと。

とりあえず楽しそうなのは良いのですがマナーは守ってほしいですね…なんか急にピッチに乱入し始めたし…

ピッチ乱入した移民兄さんは地元のおばちゃんサポーターにこっぴどく叱られていましたが、そのおばちゃんの威勢のいい声から次のチャントが始まって、雰囲気の良い集団でした。

そしてアウェイのBK-46サポーターは劇的勝利にすごく嬉しそう…

荒れに荒れた試合を制し、勝ち点3を遠く離れた町に持ち帰る選手と10人ほどのサポーター。


フィンランド3部リーグは地域別で3つのリーグに分けられているそうですが、それでも彼らはこんなに離れた場所から遠征してきた精鋭たちのようです。お疲れ様でしたとしか言えない…

サッカーを通じて様々な人々が交わるスタジアム

移民中心の大人たちが応援する向かいのスタンドでは地元の子供たちが大きな声で選手にエールを送っていました。スタジアム内は老若男女、現地人や移民、様々な人が行き来する空間でした。違う人種でも同じ町に住み、同じチームを応援するためにここに集まっている。当たり前なのかもしれませんが、なんだか少し嬉しく感じます。

私が前述のスタグルのソーセージを食べていると、1人のおじさんが「やあ中国人、どうだ?美味いか?」と聞いてきました。私は美味いよとサムアップして、あなたも食べる?って返したところ「ごめんな、俺は食べられないんだ」と返されたんです。

ソーセージが嫌いだなんて珍しいなと思ったのですが、10秒おいて気が付きました。彼は宗教上食べてはいけないのだと。ハッとしました。

これも異文化が同じスタジアムの中でサッカーという競技を通じて共存しているということの証かもしれません。これ、日本だと「宗教上食べられないものはスタジアムで売るな!」になってしまうんじゃないかな。

サッカーが強いとは言えない、人気とも言えないフィンランド。その3部リーグという舞台においても、スタジアムが地域の人々にとって週末の楽しみの場となっていること、老若男女、どんな人種の人々でも楽しめる場となっていることに北欧のスポーツ文化の懐の深さを感じた次第です。

試合はすごい展開でしたが、いいものを観させてもらったと思います。

Footy talks Vol.1 「FIFAランク191位の島で」

 

このサイト立ち上げの記念すべき?初記事では今年1月に訪れたマルタ共和国のサッカーについてお話します。なぜそこに行ったのか?理由は2つ。島好きの好奇心がくすぐられたこと、もう1つは異常なほど安い航空券が出ていたからです。ターキッシュで往復52,000円でした。いつか行くなら思い立った時に。

 

 

地中海に浮かぶマルタ共和国。ヨーロッパではもともとリゾート地として有名で、英語が公用語のため最近は留学先としても人気の高い国です。

マルタと言えば、サッカー日本代表が歴史上一度だけ対戦したことがあります。2006年ドイツW杯開幕前、最後の親善試合。結果は1-0で勝利したが、スッキリしないまま大会を迎えることとなりました。その後の展開については語るまでもありませんが、あれからもう10年以上経つのですね・・・

マルタはヨーロッパサッカー界において、我が愛するフェロー諸島と共に「やられ役」を長く演じてきました。FIFAランキングも191位。(2017年7月現在)何人か実力のある選手が居て、たまに番狂わせを起こす立ち位置です。日本では誰も話題にすることが無いマルタのサッカーを覗いてみた時の発見。それが初回のテーマです。

強くないけど、サッカーが本当に好きな島

訪れて驚いたことは、マルタの人々は本当にサッカーが好きなことです。カルチョが大人気なイタリアが近いこともあるのでしょうか、至る所で人工芝のピッチを見かけますし、お土産屋にはマルタ騎士団のプリントが施されたサッカーボールが必ず売っています。まるで「国技」のような扱いです。

首都ヴァレッタ市街のサッカーグッズ専門店の品揃え。上1列と2段目の左側3つのペナントはなんとマルタ国内のクラブ。数々の強豪と並べて売られています。

マルタ共和国は有人島であるマルタ島・ゴゾ島がそれぞれサッカー協会を持っており、(UEFAに加盟しているのはマルタ島の協会)マルタ島では4部制、ゴゾ島では2部制の成年男子のリーグ戦が展開されています。2島合わせても人口は約40万人の国で、67ものクラブがしのぎを削っているのです。トップリーグの試合ともなれば熱狂的なサポーターがスタンドを埋め、ブラスバンドを率いた応援が展開されるクラブまであります。

マルタプレミアリーグの強豪、ヴァレッタFCのサポーター。

 

ただ人口に対するリーグ規模であれば、昨年のEUROで世界中を驚かせたアイスランドにもこれくらいは当てはまる話です。彼らは人口約32万人で5部リーグまで展開しています。マルタサッカーのすごいところは人口比の話ではないのです。人口でなければ何か…それは面積です。

グラウンドは学校の敷地内、クラブハウスは飲食店

起伏に富んだマルタの地形。比較的平坦な場所には既に住宅が密集している。

マルタ共和国の面積は316㎢。これは東京23区の半分、名古屋市や前橋市、八戸市とほぼ同じ面積だそうです。ここに67クラブあるというのです。多いですよね。少年サッカーではないのですから。1つの集落に対して1つ以上のクラブがある感覚です。

密集した住宅街の中にはめ込むようにして作られたスタジアム。

そしてマルタは平地が少ない地形をしています。起伏に富んでいてバス移動で気持ち悪くなるくらいです。当然全クラブが満足な広さのグラウンドを持てるわけではありません。

公式戦も協会で決められたいくつかのスタジアムでしか開催できません。1つの会場で大体1日2試合開催されます。

マルタプレミアリーグで使用されるハムルン・スパルタンズFCのホームスタジアム。建物が密集する街中に埋め込まれたスタジアムです。

練習グラウンドはトップリーグのクラブでなければフットサルコートに毛が生えた程度のものも結構多いです。私が訪れたゴゾ島の一番端の町San Lawrenzには小学校兼交番という敷地の中にポツンと人工芝のコートがありました。

ゴゾ島2部リーグのSt.Lawrence Spursの練習グラウンド。こじんまりとした人工芝コートですが、改装するまではこれよりも狭かったのだとか。

マルタではクラブハウスも特殊な形態を取っています。あるクラブはレストラン、あるクラブはバー、あるクラブはピザ屋、といったように飲食店に置くことが一般的です。クラブ名を冠した店に入ると、これまで獲得してきたトロフィーが飾られておりクラブの歴史が垣間見れます。そこで地元の人が飲食をしていて、サッカーの話だけでなく、世間話もしていたりします。

ゴゾ島2部リーグSannat Lions FCの名を冠したピッツェリア。注文すると焼き立てのピザを出してもらえる。
世間話が繰り広げられるバーカウンターの向こうにはこれまでクラブが獲得したトロフィーが飾られている。

売り上げはクラブの運営費にもなるようです。運営費を稼ぐためにクラブの店を開いたところもあれば、もともとクラブハウスだったところをバーに改装したところ、ただ住所を置く場所が飲食店しか無かっただけなど理由は各クラブごとに様々でした。新しくクラブハウスを建てるお金も土地も無い中では、誰もが気軽に訪れることができる飲食店でクラブハウスの形態を取る方法が人々に一番支持されているのかもしれません。

観戦した試合は金曜夜開催に加え、年に一度の大寒波に当たってしまい観客は十数人だけでした。残念・・・

私がゴゾ島滞在時にゴゾ島リーグを観戦した後、事前に連絡を取っていたSt.Lawrence Spurs FCの選手がクラブハウス兼バーに招待してくれました。そこには数々のお酒のボトルと別の店で買ってきたピザが用意されていて、1時間ちょっとの祝勝会が催されました。いつも試合後はこのバーで会話に花を咲かせるそうです。羨ましいひと時です。

試合後のSt.Lawrence Spursのバーにて。温かく出迎えてくれました。

San Lawrenzの集落は人口700人ほどですが、試合によっては100人近くの観客が来ることもあるそうです。マルタ国内で展開されているサッカーは決してレベルの高いものではありませんが、どの町のクラブもそれぞれの地域で人々が集う場所としての機能を果たしており、信仰心と地元愛が強いマルタの人々にとっては教会と同じくらい、無くてはならない存在のようです。

限られた環境の中でも楽しめる心持ちは学びたい

限られた資源の中で工夫してサッカーを楽しむマルタの人々を見て、改めて考えさせられました。

日本はどうでしょう。球技専用のスタジアムも多くなり、いわきFCのように始めから設備を一流のものに揃えるクラブまで現れましたが、それはまだ一部の話に過ぎず、ハード面で苦しい状況に直面している地域も多いです。日本の場合、設備の欠如が昇格不可など不利益にも繋がるので、とかくネガティブになりがちです。

勿論より良い環境を求めることを否定するわけではありません。競技力強化のためにも一定以上の設備は必要なものです。

ただ、無い物ねだりをするのではなく、今ある環境下でいかに魅力を見出していくか。その気持ちは忘れてはいけないと感じます。綺麗な専スタが人を集めているのではありません。楽しいところ、面白いところに人が集まってくるのだと思います。

新鮮なサッカー観を示してくれたマルタの人々に心からのリスペクトを。