Footy talks Vol.6 「20年ぶりのW杯を目前に」

1月。成人の日を含んだ3連休は毎年どこかに行きたくなります。ふとアフリカに行きたくなって、Skyscannerをいじってたら、往復6万円の格安航空券がありました。行先はカサブランカ、モロッコ。

 

モロッコといえば、ロシアW杯に出場するアフリカの雄。20年ぶり、なんと98年のフランス大会以来のW杯出場となります。身体能力の高い猛者たちがひしめくアフリカ大陸予選で長年勝ちきれずにいましたが、今回は予選で無失点という組織力の高さを見せつけて本大会へ進みました。

久々のW杯本大会出場にモロッコ国内も盛り上がっています。

モロッコが属するグループBはスペイン・ポルトガルの2強と目されていますが、モロッコもバイエルンやユヴェントスなどのビッグクラブで活躍してきたDFベナティアを中心に各ポジションに欧州強豪リーグで活躍する実力派を揃えています。守備力が高いので短期決戦でサプライズを起こす可能性も十分秘めているでしょう。

今回のテーマはそんなモロッコを旅して感じたサッカーのこと。国内リーグは1試合しか観られませんでしたが、感じることが多い滞在でした。

アフリカ屈指の実力と人気を誇る国内リーグ

モロッコのプロリーグ「ボトラ」はアフリカ大陸の中でも高い人気を誇るリーグです。昨年、浦和レッズとクラブW杯の5位決定戦で対戦したウィダード・カサブランカはこのリーグの2強の一角。昨季アフリカCLで優勝。同じカサブランカを本拠地とするラジャ・カサブランカと共にこの国のサッカーを引っ張る存在です。

伝統あるウィダード・カサブランカ。モロッコ有数の人気クラブ。
今回、渡航期間にリーグのウィンターブレイクを挟まれてしまったのですが、クラブW杯に出場したウィダードが未消化日程をこなすということで幸運にも観戦が実現しました。場所は世界遺産の都市で観光地としても有名なマラケシュ。カウカブ・マラケシュというクラブとのアウェイゲームです。
モロッコでクラブW杯を開催した時にも使われたマラケシュのスタジアム。
追加日程ということでバックスタンドは開放していませんが、月曜夜にしては両サポーターがゴール裏にそこそこ集まる良い雰囲気の中での試合でした。

この試合、ウィダードの選手たちは疲労のピークを迎えていました。アフリカCLやクラブW杯出場で軒並み延期となっていたリーグ戦を昨年11月下旬から消化し始め、ここ1ヶ月、中2〜3日で試合をこなし続けていたからです。

また、ここモロッコでアフリカ・ネイションズ・チャンピオンシップ(※国内リーグ所属の選手のみ起用できるアフリカ選手権。有名なカップオブネイションズとは異なる大会。)が開催されるため、ウィダードの主力選手が4人も代表に招集されてしまいました。スタメンは1.5軍のようなメンバー。一方のマラケシュは招集ゼロでほぼフルメンバーでした。

その差が現れたのか、マラケシュはウィダードDFの裏を面白いほど突いていきます。お互い1点を取り合うも、マラケシュが主導権を握る展開。サッカーの内容はヨーロッパに近く、身体能力よりも個々の技術の高さが目立ちました。よくパスも繋いでいました。
陸上トラックまで投げ込まれた発煙筒。試合を中断するまでには至らず。
前半終了間際にはマラケシュのサポーターが発煙筒を焚き始めました。ウィダードのサポーターの声の方が大きいのですが、熱量ではマラケシュも負けていません。

後半もマラケシュ中心に攻めるも両者決め手を欠き、1-1のまま終了かと思われた89分、ペナルティエリアの端からマラケシュの選手が上手くコントロールしたシュートをゴールへ流し込みました。

名門相手の番狂わせにマラケシュサポーターは大騒ぎの中試合は終わりました。
名門ウィダードから貴重な勝ち点3を挙げたマラケシュ。今季、僅差で残留を決めましたが値千金の勝利でした。
月曜夜でもこれだけの雰囲気が作れるほど人気があるモロッコリーグなのですが、実はロシアW杯メンバーに絡めたのはほんの2〜3人。現在のモロッコ代表はフランスやオランダ出身の移民が大半を占めており、モロッコに住んだことすらないメンバーの方が多いのが現実です。

モロッコの少年たちはサッカーに夢中

代表チームに国内組の選手が少なくても、モロッコの少年たちはとにかくサッカーが大好きです。普通に旅をしている中でも、この国のサッカー好きな一面を垣間見ることがありました。
人気の砂漠宿泊ツアー。ラクダにも乗れますが、道のりはラクではなかった…
砂漠に宿泊する人気ツアーに参加したのですが、この日モロッコは大寒波に見舞われ、6時間かかる通常の山越えルートは大雪通行止め。しかし中止にならず11時間もかかる迂回ルートを余儀なくされました。体は疲弊しましたが、観光とは無縁で経済的に取り残された貧しい町も眺めることができました。

どの町にも子供たちが遊ぶためのサッカーグラウンドがあったのが印象的です。ネットも張っていない枠が2つ立っているだけの土のグラウンドばかりでしたが、町に住む子供たちの「オアシス」を車窓から何十も眺めていました。ひとつひとつ趣きがあって、止まって写真に収めたかったくらいです。

ほとんどの集落のグラウンドがこのような最低限の作り。ただ、もれなくどの集落にもありました。
休憩や観光で降り立った小さな町でも、子供たちはサッカーをして遊んでいます。空気が十分入っていないボールでも、楽しそうに蹴飛ばしています。
ペコペコのボールを蹴って遊ぶ子供たち。
地面がぬかるんでいても、デコボコしていても、関係ありません。石畳の狭い路地ならチョークでゴールを描いて。少しでもスペースがあれば彼らはボールを蹴って楽しむのです。とても疲弊したツアーでしたが、こういった一面を見られたのは収穫でした。
マラケシュの路地に作られたお手製ゴール。カウカブ・マラケシュを表すKACMの文字が。

サッカーを通して感じたこの国の現実

サッカーはその国の様子を写す鏡となる。いつも思っているのですが、ここモロッコでもそうでした。
スタジアムにはとにかく若者が多かったです。私が観戦したメインスタンドの高価な席(といっても50ディルハム≒650円)は比較的裕福そうな大人もいたのですが、20ディルハム(≒260円)のゴール裏席には少年、若者といった年齢層のサポーターで溢れていました。親子で来ている人はあまり見当たりません。
アウェイまで来るウィダードのサポーターは流石に年齢層も少し高めでしたが、それでも概ね若者。マラケシュ側は地元の少年ばかりでした。
あくまで推測でしかありませんが、モロッコの経済水準が大きく影響しているのだと思います。アフリカの中では裕福なイメージはありましたが、やはり先進国ではありません。

彼らモロッコ人はすごくお金にシビアです。値札を付けず人を見て値段を付け少しでも多く稼ごうとしますし、前述のツアーだって、悪天候でもキャンセルしたらその日の収入が無くなりますから、無謀な迂回ルートを使ってでも強行しました。

家計を支える大人は時間的にも経済的にもサッカーを観に行く余裕は無いのでしょう。それに比べ若者には時間的余裕がありますが、大人に無いお金があるはずもありません。

1人がお金を払って乗り込んで、内側から中ドアを開ける作戦だったようですが、左の強面おじさんに捕まり失敗…
スタジアムまで向かう路線バスで、マラケシュのサポーター少年たちとバス会社職員の攻防を目撃しました。集団での無賃乗車工作は失敗に終わりました。たった7ディルハム(≒91円)すら惜しいのです。

帰路でも、少年たちがお金をくれないかと近づいてきました。手で「5ディルハムでいいから」と。私はその手に日本が誇る駄菓子、モロッコヨーグルを心を込めて置いていきました。

地元マラケシュの子供たち。試合後の遅い時間でも子供だけで暗い夜道を帰ります。
大都会カサブランカに住むウィダードのサポーターは比較的裕福だからこそ、電車で片道4時間もかかるここマラケシュまで来れたのでしょう。それでも日本円で片道1300円かかるので大変なはずですが。
ウィダード(Wydad)の頭文字を手で作るウィダードサポーター。彼らはきっとこの国では裕福な人たち。
サッカーを楽しむということは、現実の生活に余裕がある人でないと、なかなかできないものだと痛感させられます。我々日本人だって日々生きていくのは大変だけど、世界にはもっと必死に生きている人たちがいるということ。

あの町のグラウンドで楽しそうにボールを蹴っていた少年も、スタジアムで声を枯らした若者も、いつかは家族を支えるために懸命に働き、サッカーどころではなくなってしまうのかもしれません。

サハラ砂漠から差す美しい日の出のように、モロッコ代表の活躍が国を明るく照らすでしょうか。
ただ、そんな現実に一筋の光が差すかもしれない、そんなチャンスであるW杯がすぐそこに近づいています。

1人、とても注目している選手がいます。FWのエルカービ。彼は昨年までモロッコ2部リーグでプレーしていて、今季も地方クラブでプレーした国内組。前述の国内組のみで争われるアフリカ選手権で代表初ゴールを含む9ゴールを叩き出し一気にロシア行きの切符を掴んだシンデレラボーイです。

彼がスペインやポルトガル相手にゴールを決めるようなことがあれば…モロッコ国民の夢は無限に膨らんでいくに違いありません。そんな気持ちで待つW杯。なんだかとてもワクワクします。

スタジアムで観られないのが残念ですが、モスクワのファンゾーンで観戦しようと思います。楽しみです。